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旭川地方裁判所 昭和43年(ワ)664号 判決 1969年8月27日

原告

清水義夫

被告

株式会社丸亀小倉商店

主文

被告は、原告に対し、金六三〇、〇七〇円およびこれに対する昭和四三年一二月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金一、一〇〇、一〇円およびこれに対する昭和四三年一二月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、柴野義勝は、昭和四二年三月一六日午前九時五〇分ごろ、旭川市一条通九丁目緑橋通りを普通貨物自動車を運転して四条通方面から国道旭川駅方面に向つて進行中、前方を同方向に進行していた原告運転の軽四輪貨物自動車が急停車したところ、その後部に自車を追突させた。

二、被告は、右普通貨物自動車を所有し、柴野義勝をその運転手として雇傭してその義務のために右自動車を運行の用に供していたものである。

三、原告は、右事故により、むち打ち損傷、第三、四頸椎亜脱臼の傷害を負い、昭和四二年三月一八日、大西病院に入院し、昭和四三年一一月一〇日、全治しないまま退院し、以後通院して治療を受けている。

四、原告は、多年医療器具の販売に従事してきたものであり、昭和四一年度の純益は金五七四、八〇〇円であり、昭和四二年度も同程度の収益が得られる筈のところ、右事故のため、昭和四二年三月一八日から昭和四三年一〇月一七日まで就業することができず、その間に得られた筈の金九一〇、一〇〇円の収益を失つたが、被告から生活費の補償として、金八一〇、〇〇〇円を受領したから、右金九一〇、一〇〇円から金八一〇、〇〇〇円を控除した金一〇〇、一〇〇円相当の損害を蒙つた。

五、原告は、右事故により、頭部、背部、腰部、僧帽筋、下半身痛、肩こりを併発し、不快感があり、視力、記憶力も半減し、全治までには三年間を要する見込であつて、そのため多大の精神的苦痛を蒙つたもので、その精神的損害に対する慰藉料額は金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

六、よつて原告は、被告に対し、金一、一〇〇、一〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四三年一二月一五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

次いで原告訴訟代理人は、被告の主張に対し、次のとおり述べた。

(一)  被告主張の二、三、の事実は否認する。原告は、右事故当時、降雪のためワイパーを使用して時速約二〇キロメートルで進行していたが、ワイパーが破損したので、それを修理するために急停車したものであつて、原告に過失はない。又柴野義勝は、原告の車との間に相当の間隔をおかず、前方注視を怠つて脇見運転していたため、原告の車に追突したものである。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一、原告主張の一、二の事実は認める。三の事実中原告は、右事故により、昭和四二年三月一八日から同年一一月一〇日まで大西病院に入院したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、退院後昭和四三年九月三〇日まで通院したが、その後は通院していない。四の事実中原告は、被告から、生活費の補償として、金八一〇、〇〇〇円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。五の事実は否認する。

二、本件事故現場は制限時速四〇キロメートル、一方通行、駐車禁止に指定されている道路であり、当時路面は積雪の上がふみ固められてスリップの可能性が大きかつたので、柴野義勝は、原告がかかる道路において急停車するとは思つてもみなかつたのに、原告は、後続車の確認を怠り、停止の合図もなく、かつ左側の駐車禁場所まで運行することもせず、駐車禁止の場所に急停車をしたのである。そのため、柴野義勝は、原告運転の車と四メートル位の間隔で後続中にこれを発見してブレーキをかけたが間に合わなかつたものであり、本件事故は原告の過失によるものであつて、柴野義勝に過失はなかつた。

三、仮に右主張が認められないとしても、右事故を生ずるに至つたについては、原告の右過失がその一因をなしたものであるから、損害賠償額については過失相殺がなされるべきである。

〔証拠関係略〕

理由

一、柴野義勝は、昭和四二年三月一六日午前九時五〇分ごろ、旭川市一条通九丁目緑橋通りを普通貨物自動車を運転して四条通方面から国鉄旭川駅方面に向つて進行中、前方を同方向に進行していた原告運転の軽四輪貨物自動車が急停車したところ、その後部に自車を追突させたこと、被告は、右普通貨物自動車を所有し、柴野義勝をその運転手として雇傭してその業務のために右自動車を運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。

二、〔証拠略〕を綜合すると、原告は、右事故により、むち打ち損傷、第三、四頸椎亜脱臼の傷害を負い、昭和四二年三月一八日から同年一一月一〇日まで大西病院に入院し、その後昭和四三年九月三〇日まで通院して治療を受けたこと、原告は、昭和一六年ごろから医療機械の製造販売を業としていたもので、右事故当時、少くとも一ケ月金四七、九〇〇円の収益を得ていたこと、しかし原告は、右事故のため、昭和四二年三月一八日から昭和四三年一〇月一七日まで全く就業することができず、その間に得られた筈の金九一〇、一〇〇円の収益を失つたことが認められ、原告は、被告から生活費の補償として、金八一〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがない。

従つて、原告は、右金九一〇、一〇〇円から金八一〇、〇〇〇円を控除した金一〇〇、一〇〇円相当の損害を蒙つたことが認められる。

三、〔証拠略〕を綜合すると、原告は、右事故のため、大西病院を退院して後も昭和四三年九月三〇日まではほぼ毎日のように通院して治療を受けたが、その後も頭部や頸部に痛みがあり、手がしびれるなどの症状が残り、又事故前二〇度の老眼であつたのが八度にまで視力が減退し、電話も聞きとりにくくなり、又、味覚もおちるに至つたこと、原告は、そのため従前の業務を続けることができず、妻の得る一日約六〇〇円ないし八〇〇円の収入によつて妻と二人の生計を辛うじて維持していること、被告の旭川支店長の小倉義美は、柴野義勝とともに、昭和四二年三月一八日ごろ、大西病院に入院中の被告を見舞い、見舞金として金一〇、〇〇〇円を贈つたこと、被告は、原告に対して、生活費の補償として、前記二のとおり金八一〇、〇〇〇円を支払つたほか、昭和四二年三月一八日から昭和四三年九月三〇日までの原告の入院費および治療費合計金一七三、六八四円を原告に代わつて大西病院に支払い、更にその間の原告の通院に要する交通費をも原告に支払つたことを認めることができる。

以上認定の事実に前記二の事実をも合わせ考えると、原告は、右事故により、多大の精神的苦痛を蒙つたものであり、その精神的損害に対する慰藉料額は金八〇〇、〇〇〇円が相当であると認められる。

四、被告は、柴野義勝には過失がなかつた旨主張するのでこの点について判断する。

〔証拠略〕を綜合すると、本件事故現場は、制限時速四〇キロメートル、一方通行、駐車禁止に指定されている幅約八メートルの道路であり、当時路面は積雪の上がふみ固められていてスリップの可能性があつたこと、柴野義勝は、緑橋通りと一条通りとの信号機の設置されている交さ点で、赤信号のため原告運転の車の後に追従して停止し、信号が青になつたので原告運転の車のすぐ後について発進し、交さ点をこえて時速約二〇キロメートルで原告の車と約六メートルの間隔をとつて進行し、更に加速しようとした瞬間に、原告の車が急停車する尾灯がついたのを発見し、約四メートルの車間距離でブレーキをかけたが二メートル以上スリップして原告の車の後部に追突したものであること、原告は、当時降雪のため、ワイパーを使用して進行していたが、右交さ点を通り過ぎて時速約二〇キロメートルで道路右側のグリーンベルトから約一メートルのところを進行中、突然運転席前のワイパーが故障し、ガラス面をふくゴムが落ちたので、これを修理しようとして追従車の有無を十分確認せず直ちに急停車の措置をとつたこと、当時雪は降つてはいたが、ワイパーを直ちに修理しなければ進行するのが危険なほどの状況にはなかつたことが認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を左右しうべき証拠はない。

以上認定の事実によれば、本件事故について、柴野義勝に全く過過失がなかつたとは到底認められず、かえつて柴野義勝は、先行する原告の車に追従して走行している際には原告の車が急停車の措置をとる場合のあることを予測し、ことに本件の場合はスリップの可能性が大きいことをも考慮に入れて、追突を避けうるような速度および車間距離をとつて運転すべき注意義務があつたのにこれを怠つて十分な間隔をおかずに追従して運転した過失によつて本件事故を起したものというべきであるから、被告の右主張は理由がない。

五、そこで過失相殺の主張について判断する。

前記四で認定した事実によれば、原告は、車のワイパーが故障した際、当時の道路のスリップし易い状況、現場が一方通行でかつ駐車禁止の指定のある道路右側であり、かつ交さ点をこえたばかりの場所であつたことなどから考えて、直ちに急停止の措置をとつたときには追従する車に追突されることが当然予測しうる状況にあつたのであり、しかも直ちに急停止してワイパーを修理しなければ、全く進行できない程激しい吹雪でもなかつたのであるから、このような場合には、バックミラー等によつて追従車の有無を確認したうえ、道路左側に寄るとか、追突の危険のない場所まで進行してから停車するなどして追突事故発生を避けるような措置をとるべき注意義務があつたのに、これを怠り、直ちに急停車した過失によつて右事故を発生せしめたものであると認められる。そして本件事故発生について原告に対する損害賠償額の算定にしんしやくすべき原告の右過失の割合は一〇分の三であると認めるのが相当であり、被告の原告に対する損害賠償額は損害額の一〇分の七に減額されるべきものである。

六、従つて原告は、被告に対し、逸失利益金一〇〇、一〇〇円および慰藉料金八〇〇、〇〇〇円合計金九〇〇、一〇〇円の一〇分の七である金六三〇、〇七〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四三年一二月一五日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものであるが、原告のその余の請求は理由がない。

よつて原告の請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

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